あいつは知らない


あいつは知らない。
私のこの身勝手な気持ちを、あいつは知らない。


「ねぇ、ランディ」
「何?」
「どう、最近?」
「どうって言われても」

ランディが困ったように笑う。彼らしい笑顔。

「ん〜、この間は帝国ノースタウンに行ったよ。まだ国情は落ち着いていないからクリス達も大変そうだったけどね」
「そう。クリス、元気?」
「うん、元気だったよ」

彼は変わらない笑顔でクリス達のことを話してくれる。
自分から聞いたくせに、聞かなきゃよかったと後悔した。
きっとノースタウンへの滞在は数日に及び、楽しいひと時を過ごしたのだろう。

「あ!」
と、ランディは声を上げ、がさごそとポケットをあさる。
そして取り出した袋包みを私に向けた。

「なあに?」
「お土産。空けてみてよ」

空けてみると、綺麗な髪留めが。
しかもこれって。

「きゃー!すっごく可愛い髪留めじゃない!嬉しい!」
「良かった。前にさ、プリム、こういうの欲しそうにしてたから」

前とは、旅の途中の話。
買出し中に好みの髪留めを見つけたが、戦う女にそんなものは必要ないじゃないかと諭されて、しぶしぶ防御力の高いリボンを選んだことがあった。
それを覚えていてくれたことが、何より嬉しい。

「何よ、ランディのくせして気が利くじゃない」
「ひどいなぁ、「くせに」は余計だろ」
「これは失礼。だって聖剣の勇者様だものね。それに今はタスマニカの騎士だし」
「なんだよそれ。それに騎士って言っても名前だけで実際はふらふらしてるし」
「で、今日はどうするの?パンドーラで一泊するの?」
「いや、ルカ様の所に行くし、今日はこのまま水の神殿に行くよ」
「そっか、ざんね〜ん。時間あるならパメラと一緒に美味しいご飯でもどうかなと思ったのにな」
ランディはごめん、今度はプリムもこっちに遊びにきてよ、と言ったので、その内ね、と返しておいた。

それから何気ない会話をしつつ、ランディを見送って家に戻る。
途中、すれ違う女の子が憧れの目でランディを見ていた。
その女の子だけじゃない。他の国の女の子や、それにクリスだってランディを慕っている。
私はいつだって彼の幸せを願っているし、彼の恋路を邪魔する権利なんてない。
ないのに、彼への独占欲で一杯なの。
自分の気持ちに気づかないふりして、彼を独占したいという身勝手な私。

ねぇ、ランディ。どうかこんな身勝手な気持ちに気づかないでー



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