通り雨
「いやな暑さだなぁ」
そうポツリと呟いたランディをまじまじとプリムは見る。
暑いというだけに、額にはうっすら汗をかいてはいるが、それでもプリムやポポイよりは平然としているように見えた。
「ねえ。ランディってもしかしたら夏生まれ?」
「え?さぁ、どうだろう?自分のことをあまり知らないから分かんないや」
あぁ、という顔をしてプリムは納得したかのように頷いた。
ランディが質問の意図をプリムに尋ねる前に、プリムが少しだけ得意気な顔をし、
「私はいつ生まれだと思う?」と、逆に聞いてきた。
うーん、とランディとポポイが口を揃える。
「夏生まれ、ていうことはなさそうだよな」
「うん、それはないよなー!ネエちゃん暑いの嫌いだし」
二人の回答に満足し、そうそうとにこやかに頷きながら、
「色白だしねぇ」と自分で付け加えてみる。
「分かった!冬でしょ!」
「惜しいー!ギリギリ秋生まれなの」
何故か得意気なプリムを見て、可笑しくなったランディは、「そっかー、秋かぁ。プリム、暑いのも寒いのもダメだもんね」と彼にしては珍しくからかいを含めた言葉をかえしてみた。
そしてふとそういえば何故か自分は夏生まれだと思われたのだろうか、と不思議に思った。
確かに二人より暑さには少々強いが、冬の寒さにもそこそこ強いとは思っている。
「プリムは何で僕が夏生まれだと思ったの?」
ランディの質問にプリムは大きな目をさらに大きくし、キョトンとする。
「だって、似合うんだもの」
夏が。
プリムはそう付け加えた。
どこまでも続く清々しい青い空も。
青く生い茂る草木の匂いも。
そこを流れる美しい水も。
「じゃあ、オイラは?」
話を割るようにして、ポポイが目を輝かせながら二人に聞く。
もちろん、ポポイもランディと同じく自分の生まれた季節など知らない。
「そうねぇ。チビちゃんは春ね、きっと春!」
「春!」
おうむ返しのようにポポイが言う。
ランディは、何でそう思うんだい?とプリムに聞く。
「四季の森の春があったじゃない?あそこの風景がとってもチビちゃんに合ってたの。だから、きっとそうなんだろうなぁって」
「ほうほうほう!」
プリムの回答に満足し、ポポイはにやにやと頷く。
「春に夏に秋ね。僕ら3人だけだから仕方ないけど、冬がないのが残念だなぁ」
「冬、冬・・・あ!パメラが冬だわ!あの子、すっごく寒い時に生まれたのよ」
分かる気がする、と3人顔を見合わせて笑った。
ぽつり。
ぽつり、ぽつり。
ぽつぽつぽつぽつっ!
「「「あっ!」」」
3人が声をそろえて空を見上げると、一瞬のうちに空から大粒の水が降り注いできた。
ざぁぁぁぁぁぁっと、大きな音をたてて雨が降り注ぐ。
ひどい雨だが、不思議と空は晴れ渡っていて、雨と青空とのアンバランスなコントラストが、3人の心を幾分晴れやかにしていた。
「うそー!こんなに天気いいのに雨が降るの!?」
「やばいよ、びしょ濡れになるよ!」
わたわたとする2人をよそに、ランディは先程から感じていた違和感の理由に気づいた。
「嫌な暑さだ」
ランディがそう思った理由を。
ランディは乾いている、色で例えるなら透明、味でいうなら無味。
そんな暑さが、好きだったのだ。
しかし、先程から自分が感じている暑さは、水分と濁りを含んだ暑さだったのだ。
「そっか、そういうことだったんだ」
ランディが独り言のように呟くと、すでにずぶぬれになったプリムがランディの手をつかんだ。
「何言ってるの、行くよ!早く雨宿りできる場所見つけないと、ずぶぬれになっちゃう!」
もうびしょびしょだよ、とポポイが陽気に笑い、ランディの空いた手をとり、走り出した。
自分の手をひく、自分よりも小さな2人の手を見ながら、ランディは嬉しそうに微笑んだ。
思いがけないハプニングも。
普段なら最悪だと思えるこの状況も。
今日だけは、今だけは。
気まぐれな通り雨に、感謝を。