その後の話


4


澄み渡る青空と、大海原が広がっている。

綺麗だ、とランディは思う。
自分を照らす日の光も、通り抜ける潮風も、全てが心地よい。
タスマニカに来て良かった、と改めて感じる。
きっと亡き父も自分と同じようにこの時間を楽しんだに違いない。

ここはタスマニカ共和国レムリアン城。城が城下町としても機能しており、ランディはそこの一室を与えられた。

まだ騎士としての仕事はなく、国王や側近との会食や城内の案内、他の騎士や兵たちとの触れ合いが主であり、ランディは時間が出きると眺望のよいこの城壁のテラスにいた。
ふと胸ポケットから一枚の古写真を取り出し、見つめては微笑した。
そこには、知り合った騎士から譲り受けた父セリンの若き姿が写っている。

「…こうしてみるとあまり似てないな」

「そうだな、お前はどちらかというと母親似だ」

振り向くとジェマが笑顔で立っていた。
「母さんにあったことあるの?」
「ほんの何度かだがな」
「そっか。父さんは聖剣を抜くときに一瞬だけあったことはあるんだ、あの時はお化けだとおもったけど。」
写真をもう一度眺め、胸にしまう。

ジェマもランディと同じ様に城壁に腕をもたれ、二人で目の前の大海原を見た。

「…ランディ、お前もここでの暮らしにだいぶ慣れただろう。そろそろ動きたいんじゃないか?」
「…うん、やりたいことというかマナについて気になってることはある。ただ、どこからどう調べていけばいいかが分からなくて」
ランディはもたれた腕に顔をうずめる。

「とにかく、マナに縁のある場所に行って神獣がいなくなってから世界のバランスがどう変化しているかを調査するところから始めないといけない」

「私も同感だ。実は近々パンドーラにて同盟をよりいっそう深める為の記念パーティが開かれる。半分は社交的なものになるが、招待客の中にはマナや地域の歴史に詳しい学者も多数招かれるそうだ。まずはそこで情報収集しないか?」

ランディはマナの情報に喜んだが、すぐに参ったなという顔をした。

「…そのパーティには僕も招待されてる、てことだよね?」
ジェマは当然のように頷き、
「勿論、誇りあるタスマニカの騎士として。そして聖剣の勇者としてだ」
と、にやりとする。

「…勘弁してよ」
慣れてないんだ、そういうの、とぶつぶつ文句をいうランディにジェマは一言こう言った。

「これもお前の使命だ、諦めろ」




  「プリム!」

パメラが手を振りながらこちらに駆け寄ってきた。
プリムに追いつくと少し息を切らしたのか、手を胸元に持って行き苦しそうに肩を上下させた。

「ダメね、少し走っただけで息がこんな風になっちゃうの。運動不足だわ」
それでもパメラは嬉しそうで、笑顔が溢れている。

「仕方ないわよ、その内体が慣れてくるわ」
二人並びあって、パンドーラの街を歩いていく。
二人は街の外れにあるカフェでお茶の約束をしており、途中で合流したところだ。
歩きながらパメラが後ろで腕を交錯させながらプリムの顔を覗く。
「ね、聞いた?」
「何を?」
何故か嬉しそうするパメラにプリムは首を傾げた。

「今度パンドーラで開かれるパーティのこと!ほら、タスマニカとの!」
えぇ、知ってるわ、とプリムは答える。
というのも、国の有力者やその家族は招待されており、勿論プリムもパメラも招待客に含まれているからだ。

「それがどうかしたの?」
パメラとタスマニカにそんな嬉しそうにする話題あったかしら、とプリムは思う。
そんなプリムの様子にパメラはじれったそうに首を振った。
「もう!彼、来るんでしょ?彼よ、ランディ!」
パメラはプリムをじっと見つめ、返答を求めた。
「…その予定みたいよ」
先日、ランディから来た手紙にそう書いてあった。
「良かった!」
パメラはご機嫌である。プリムにはそのご機嫌の理由がますます分からなくなる。
「ねぇ、なんでランディが来ることがそんなに嬉しいの?」
「だって、私、彼のこと何にも知らないんだもの。助けて貰ったのに、精神不安定だったから会話どころかお礼もまだ言えてないのよ?」
だから、今度のパーティーで会えるのが楽しみなのよ、とパメラは答えた。
「そういうことだから、その時は紹介宜しくね」
パメラはにっこり微笑む。
その笑顔に圧倒され、プリムは仕方なく頷いた。



タスマニカ共和国との同盟記念パーティーは、パンドーラ城の王の間で行われた。
堅苦しい挨拶が済むと、招待客による立食会が始まり、各々食事をとりながら会話を楽しむ。

「見つかった?」
デザートを取ってきたプリムに向かってパメラは耳打ちした。
「まだ。タスマニカの人達ってみんな同じ服着てるから分かりにくいのよ!」
そう文句を言って、プリムは辺りをキョロキョロ見渡す。
そこにプリムと同じ様に辺りを見渡している人物を発見し、思わず凝視する。
その人物と目が合った。
「「あっ!」」

「いた!」
プリムがそう言うと、パメラがどこ?、と身を乗り出した。
その人物、ランディは話をしていた相手に会釈をし、こちらに駆け寄ってきた。

大丈夫、大丈夫、とプリムは心の中で呟く。
気づいた気持ちには蓋を閉めて表には出さないと決めたのだ。
パメラにだって普段通りに振る舞えたのだ、だから平気よ、と自分に言い聞かした。

駆け寄ってきたランディは、横にいるパメラに気づくと、軽く会釈した。
「プリム、それにパメラ、久しぶり!元気だった?」
そう言って、二人と握手を交わすランディ。
パメラは真っ先に助けてもらったことのお礼をいっており、何よ紹介なんて必要なかったじゃない、とプリムはパメラを軽くにらむ。
「ランディも元気そうね・・・」
プリムはランディの姿を改めてまじまじと見る。
今日はタスマニカの正装なのだろう、シルバーとブルーの隊服に身を包んでおり、少し大人びた印象を受ける。
少し背も伸びたかな?とプリムはランディを見上げた。

「・・・馬子にも衣装ね、すっかりタスマニカの騎士だわ」 と、茶化した。うっかり見惚れてしまったなんて認めたくなかった。
ランディはそんなプリムの言葉に恥ずかしそうに頭をかく。
「だろ?こういう服装もこういう場も不慣れなんだ」
けど、とランディはプリムを見つめて続ける。
「お互い様かな、僕もプリムのドレス姿なんて初めて見た。いつも勇ましいパンツ姿しか見たことなかったから」
勇ましいとは余計ね、とプリムはムッとしたが、ランディの次の言葉に体が固まってしまった。

「綺麗だ、似合ってる」

とたんにプリムの顔が赤く染まる。
体中の血液が沸騰してるんじゃないかと思うくらい、赤くなった。
「なっ・・なな!!」
口をパクパクして赤くなるプリムを見て、自分は結構な大胆発言をしてしまったのではないか、と遅れてランディも顔を赤らめた。
パメラは隣で二人を交互に見て、くすりと声をたてた。
パメラの声にプリムははっとし、
「とっ、当然じゃない!」と目じりをキッとあげ、ランディを睨んだ。
「う・・うん」
ランディの声は消え入りそうである。

「コホン」

その微妙な空気を割るように、低い咳払いがした。
三人が振り向くと、そこにプリムの父、エルマンがいた。

「パパ!」
「おじ様!」
「エルマンさん!」

ご無沙汰しています、とランディがエルマンに告げると、エルマンがうむ、と頷く。
「なにパパ?何か用?」
プリムが面倒そうに父を見やると、エルマンはお前に用があってきたわけではない、とランディを見る。

「ランディ君、君に紹介したい人物がいるんだ。ちょっといいかね?」
「え!?僕にですか?」
「そうだ。二人とも、悪いがランディ君を少し借りるよ」
そう言って、エルマンとランディは席を離れた。

暫くしてパメラがプリムにこそこそと耳打ちした。
「結構素敵な人じゃない!なんか安心しちゃった」
にこにこ微笑むパメラに対し、プリムは肩をすくめた。
「騙されちゃ駄目よ、パメラ!あいつ、今でこそあんな風だけど前はほんっとうにマヌケ男だったんだから!」
パメラはそうなの?と、プリムの言い分を受け入れていないようだ。
ほぼ初対面に近いパメラにとって、ランディは爽やかな優しそうな男性、に見えるらしい。
そういえば昔も初めて会う女性には格好つける癖があったことをプリムは思い出す。
クリスとの出会いを思い出し、ポポイにヤキモチを妬いているとからかわれたことがあった。

あの時は否定しながらもヤキモチを妬いている自分に気づいてはいた。ただ、愛だの恋だのとかそういう感情ではなく、放っておけない可愛い弟をとられる気持ちに近いと解釈していたように思う。

遠目にランディの横顔を見つめ、何故かランディがどういう気持ちでディラックの最期の頼みを聞き、その言葉をプリムに告げたのか、無性に気になった。

ランディは父の紹介で、ジェマと中年の男性、それに真面目そうな青年と話をしている。


パーティはゆっくりと過ぎていくー

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